エレクション/黒社會

19日、有楽町朝日ホールにて鑑賞。

中国黒社会を仕切る犯罪組織「三合会」の中でも最大の勢力を誇る「和連勝会」に、2年ごとに会長を選ぶ選挙の時期が近づいていた。有力候補は忠実なロク(サイモン・ヤム)と野心家のディー(レオン・カーファイ)。会長に選ばれた者は、300年にわたる伝統に則り「龍頭棍(りゅうとうこん)」が授けられ、2年間を組織のトップとして統率する権限が与えられる。やがて投票が行われ、幹部により選出されたのはロクだった。怒り狂うディーは、ロクより先に「龍頭棍」を手に入れようと大陸組織の手を借りて前任会長を追い詰める。ロクも追跡に乗り出し、「龍頭棍」をめぐって凄まじい攻防が始まる。



黒社会(ヘイサーホイ)とは、日本で言う「裏社会」のことで、大小含め多数の犯罪組織により構成されている。「三合会(Triad)」とは、その中でも特に規模の大きい「和勝和」「新義安」「14K」をまとめてさしたもの。製作会社「中国星」のトップでプロデューサーとして名を連ねるチャールズ・ヒョン(ヒョン・ワンキン向華強)は「新義安」の創設者、向前の長男であり、自身も黒社会とのつながりを噂されているのは有名な話。

ジョニー・トーといえば、「スタイリッシュな銃撃戦」のイメージに代表されるような、「警察VS犯罪者」の小気味よい攻防を描くひとという印象がありますが*1、今回はそれを封印して、真っ正面から「犯罪者」に挑んだ超大作。もうタイトルの「黒社會」という、画面いっぱいに書かれたぶっとい毛筆書体からして「この人本気だ」という気迫が伝わります。
描写は徹底してリアル。いつも以上に感情表現が抑制されていて、みんな淡々と交渉したり撲殺(!)しています。そう、今回銃撃戦は皆無に近い状態。ナイフとか丸太とか、そんなものがデフォルト装備です。暴力描写に誇張や虚飾がないので陶酔する余地もなく、刺されたり殴られたりといった痛覚描写がダイレクトに伝わってきます。「SPL」より痛いです。
サイモン・ヤムはポロシャツ&アメ横で売ってそうなブルゾン愛用の、一見ふつーのおっさん。常にあの柔和な笑みを浮かべているのですが、全然いい人そうに見えないあたり、さすがの貫禄です。レオン・カーファイはえりのとがった派手なスーツを着て、大声でわめきちらし誰かれ構わず食ってかかる好戦的な人物。この人、出る映画ごとに異なったキャラクターを演じていて、それが本当にうまいなと思います。サイモン・ヤムは、言ってしまえば彼の十八番を演じてるわけですが、映画が静かなトーンなだけにカーファイの意外性がひときわ際立ってみえました。
話は結構重たいんですが、それを支える俳優さんたちが実力派ぞろいで、この演技合戦だけでも見る価値はあります。なによりリアリズムに徹した黒社会の情景は、常に静かな気迫に満ちてて圧倒されました(観てて超肩こりました)。もう「切ない」とか「ツライ」とか感じる余裕もなく、ただただ見守るのみといった感じ。たぶん、もう一回観に行かないと内容把握できない気がします。
唯一笑えるところがラム・シューとラム・ガートンのおっかけっこ。ってまたラム・ガートン出てるし*2!ここんとこの映画祭で、アンディより登場してないか?


黒社會/Election

2005年/香港 監督:ジョニー・トー(杜蒞峰) 出演:サイモン・ヤム(任達華)、レオン・カーファイ(梁家輝)、ルイス・クー(古天樂)、ニック・チョン(張家輝)、ラム・シュー(林雪)、ラム・ガートン(林家棟)

参考リンク→ウィキペディア「三合会」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%90%88%E4%BC%9A

*1:かと思えば「ダイエット・ラブ(痩身男女)」みたいなドタバタラブコメや「マッスル・モンク」みたいな亜空間説話も撮ってるし謎の引き出しの持ち主だ。

*2:個人的に今年のマン・オブ・ザ・イヤーに認定します。もういとうって言わない。