「I'll call you」ティーチインメモ

※ネタバレしています。



私が行ったのは25日なのですが、なんと前日はティーチイン終了後、ラム・ジーチョンさんが映画館前でテレビ取材を受けていたため、サインをゲットした方が多かったようです。なななんつーうらやまちい…。


気を取り直して当日の様子です。

ラムさんはお一人での登場でした。中国語での返答を、英語・日本語の通訳の方がそれぞれ訳すため、質疑応答にはやや時間がかかりました。

私はC列、前から3番目の席です。ああ、監督のお顔が、エクボまでハッキリと……!


さて、今回私には密かな野望がありました。それはずばり「ティーチインで質問をする」こと!(それだけです)

いや、前日の「四大天王」のときに思ったのですが、ティーチインって、観客が直接俳優さんや監督さんにお話できる、わりと貴重なチャンスなわけですよね。
しかし、「何か質問ある方いらっしゃいますか?」の呼びかけに手を挙げた人、意外と少ない…?そんな気がしたのですよ。まあ観終わった直後に何か聞けと言われても、という気もしますが、ダニエルなんて俳優としても超人気ですし、もっと我も我もという様子を想像していたんですが。あ、私、ティーチインはそのときが初体験です。

あんまり質問しちゃいけない、そういう雰囲気でもあるのかな…?
もちろん単に話しかけたいだけのために、うかつな質問をするのは失礼だとは思いますが…わざわざ映画祭に来る方だったら、知識が豊富な方も少なくないはず…なのになぜに??
私だったら、聞いてしまいそうだな…。
聞くことあって、席が1階で、好きな明星が目の前にいたら、興奮して手を挙げてしまいそうだな…。
………

じゃあ、やっちゃうか?
これ、やっちゃってもいいんじゃないか?



はい、ミッション決定!というわけで、上映終了後の余韻もさめやらぬままにこやかに登場するラム・ジーチョンさんを、内心戦々恐々の思いで見つめたのでした。
司会の方が「まだ、あの演歌が頭の中で響いている方もいらっしゃるでしょうが…」と場内の笑いを誘いつつ口火を切り、なごやかにティーチインが始まります。
笑いながらも頭の中は「何聞こう?」「何聞けばいいんだろう?」の逡巡の嵐。初心者ですから背伸びしたことは聞けないし、だからって妙ちきりんな質問をすれば、周囲から「チッ、素人がでしゃばりやがって」と白眼視されキャラメルポップコーン*1を投げつけられボコボコに殴られたあげく麻布署の前に捨てられることは必至です。それだけは避けたい。
とんちんかんではなく、誰でも興味がありそうな、とにかく無難な質問、と考え「演歌の人は誰か」「アンディ・ラウがあの格好で出演した経緯」「エンディングについて」の3つのうちのどれかを聞こう、と決めました。

「エンディングについて」は、映画が意味深な場面でぱたっと終了しているため、何か補足説明をもらえればという気持ちがありました。

「質問のある方は手を挙げてください」司会の方からこの言葉が出て、いよいよ質疑応答開始です。
まだためらいがありこのときは挙手しませんでした。トップバッターは男性の方、マイクを手に立ち上がります。さあ、一体どんな質問が出てくるのか…。

「まずは大変楽しい映画をありがとうございました…」

ふむふむ、まずは感想をといったところですな。

「えー、実は私この映画を3回観ていまして…」

 
さ、3回!?




「1回目は香港で観たのですが、その時にですね…」




ほ、ほんこんでみた!?




これには監督も驚いた様子で、なんと椅子から立ってその方にお辞儀をしていました。

質問の続きは以下の通り。「通常、香港の映画館は英語と中国語の字幕がついていますが、この歌が流れたときは、日本語なのに字幕がついていなかったんですがこれは何故でしょうか。あと、このシーンで現地の方が爆笑していたんですが、やはり日本の演歌というのは、向こうの方には滑稽に感じられるものなんでしょうか」。
いきなりの玄人登場です。内容もかなりハイレベルです。脳内エンドルフィン*2がふつふつとします。
監督の回答は次の通り。「このシーンのもとになったのは、テレビで観た日本の紅白。森進一が歌っているとき、周りに人が大勢いたが誰も一緒に歌わずに黙って聞いていて、とても厳粛なムードだった。それをここでも出したかったので、字幕はなくてもよいと思った。香港の人が笑ったのは、歌手が主人公の後ろをついて歩く姿がおかしかったからで、演歌が滑稽ということではないと思う。歌っている人は歌手ではなく、映画会社の偉い人です」

ふむふむ、なるほど……って、聞きたいこと聞かれちゃったYO!

アンディについては、別のおばさまが質問していました。*3

アンディ・ラウさんがマッスル・モンクの格好をして出たのは、監督のご希望ですか?それともご本人?」
「私がお願いしました。主人公を教え諭す役なので、ぴったりだと思いました。それと、あの筋肉の着ぐるみを着た姿を実際観てみたかったから(笑)。どんなシーンになっても、絶対1日で撮影を終わらせるから、と言ってお願いしました」
さすがのユーモア。これは場内大受けでした。


ああ、質問はあとひとつ…まあ、手を挙げたところで当たるとは限らないんだけどさ…。

「まもなくお時間ですね。これが最後の質問になります。手を挙げてください」
もう迷わず、勢いよく挙手しました。この機会を逃したら、ジーチョンさんは香港に帰ってしまいます。今後、こんなふうに遭遇できる可能性はゼロに近いでしょう。だめでもともと、無駄にはしたくありません。



「はい、そこの前から2番目の方」



!! うう…残念、外れました。
まあ、いいか…参加できただけでも…
(その方は確かキャスティングについて質問していました。が、詳細を忘れました……)。
 



「ええー、あと一つ、これが最後ですね。質問のある方いらっしゃいますか?」


おおっと。まだ最後いける?
そりゃっ。当たるかしら?


「ではそこの、紫色の服の方」





うそ!!



ラスト一個ゲットおおおおーーーーーー!!




 
場内の視線がこちらに向くのがわかりました。司会の方、そして監督もこちらのほうを見ています。係の方からマイクが渡されました。本当に、私に当たったのです。質問を頭の中で繰り返しながら、震える手で受け取りました。


マイクの編み目を見た瞬間、肝心なことを思い出しました。

自分が極度のあがり症だということを。
 
 


あまりめったなことでは緊張しないタチなのですが、一度緊張するとダメなのです。手は汗でべちょべちょになり、全身はブルブルわななき、声はうわずって裏返ります。挙動不審を絵に描いたような有様になるため、周囲をギョッとさせたことも一度や二度ではありません。


そして今、まさに私はブルブル震えながらマイクを握りしめていました。声を出せば変なうわずり声になることは明らかです。でも、引けない。もう、聞くしかない。



「ええ、一番印象的なのは、やはりエンディングなのですが……」

 
 
あ、席から立つの忘れた…。
 


ヴィブラートかかりまくりのか細い裏声で、着席したまま話し続けました。ああ、ラム・ジーチョンがこっち見ている…。

「結末を見せずに、見る側の想像に任せる形で終わっているかと思うのですが、どのような意図でそうされたのか教えて下さい」

最後の方は、ヤケクソ気味になりながら質問を終えました。ああ、もう。ああ、もう。



通訳の方から質問を聞いたラム監督は、ずっとこちらを向いて回答してくれました。
非常に感激したのですが、目をそらしてはいけない、と思い、ものすごくガン見してしまいました。傍目には明らかに睨んでいたと思います。

しかも、緊張しすぎて回答の内容がちっとも頭に入ってきません。あんた、何のために質問したんや。
「彼女(カレン)は強がってはいるが、本当は空疎で寂しさを抱えている女性だから、ああいうエンディングにした。香港の女性に共通することだ」ということだったと思いますが、おぼろげです。


そしてティーチイン終了。プレス関係のフォトセッションも済み、ラム・ジーチョンさんは、満場の拍手のなか、退場されました。
私はヨロメきながら立ち上がり、会場を後にしました。


つ、
疲れた…

 
でも、

面白かった…!



同じような機会があったら、絶対また質問してしまいそうです…。



 
ところでこの話を、長年香港電影迷をやっている方にしたところ「10年以上映画祭に通っているけど手なんて挙げたことない」と言われました。
やっぱり場の空気を知らない初心者だからこそできたようです。南無。

*1:ここで映画を観る人は判で押したようにキャラメルポップを買います。ロビーには甘ったるいにおいが充満しています。

*2:何なのかは知りません。イルカでないことは分かりますが。

*3:そりゃ聞くよなあ。